1960年代から70年代にかけて、新しい医療技術は、科学技術の方法をより人間に対して適用し、人間の生命現象を要素還元主義的、機械論的に解明し、その成果を応用することによって推し進められてきた。その結果、腎透析機械の使用順位決定、脳死状態からの心臓移植、体外受精などの問題や人工妊娠中絶の合法化、尊厳死など従来の医療倫理や生命観では対処できない問題が続発し、新しい「医の倫理」の確立が求められてきた。そこで、従来の「生命」を絶対的な価値とする「生命の尊厳(sanctity of life)」という概念が見直されるにいたり、新たに「生命の質」が論じられ、「生命」の価値が相対化されてきた。すなわち、「人間の生命」を量的に評価するのではなく、患者本人の価値観、生命観、また家族など周囲の人々とのコミュニケーションも考慮し、「質的」に評価することにより、先端医療技術の対象となった患者を、一人の「人格を持った人間(パーソン)」として見ることが強調され、全人医療(holistic medicine)の考え方にも影響した。