渡航移植とは、国内で臓器移植手術を受けることができない患者が国外に行って移植手術を受けることである。日本では、1997年に現行の臓器移植法が施行される前から行われていた。同法ができる前は、脳死状態が「人の死」かどうかの議論をはじめとして、脳死判定の正当性などが問題視された68年の「和田心臓移植」に始まる移植医療への不信感もあり、脳死状態からの臓器摘出がなかなか行われず、移植を求める患者は国外へ行かざるを得なかった。臓器移植法が施行されて以降も、「15歳未満の脳死判定」は法的に行えず、また脳死状態からの臓器提供数も少ないことから、子どもを含め患者がアメリカなどへ移植手術を受けに行くケースが、数千万円に及ぶ募金運動のニュースなどとともに知られた。しかし、欧米諸国での移植臓器不足が言われるようになり、渡航してもすぐに移植を受けられるわけではないことから、中国やフィリピンなどアジア圏での渡航移植が増えてきた。これは海外施設における移植情報もインターネットなどで知ることができる状況になり、臓器提供者が得られやすいことによる。しかし、中国への渡航移植では、死刑囚からの摘出臓器が多く含まれているとの指摘もあり、臓器提供については具体的な説明がないままなされているとの報道もある。2006年3月に中国は、死刑囚の同意の上で臓器が移植に使われていること(死刑囚ドナー)を認めたが、日本人の渡航移植における使用実態は明らかにされていない。