臓器不全の患者に、脳死状態の他者から臓器を移植し、病気を治療する技術のこと。とりわけ心臓や肝臓など、心停止後の人からの提供が困難な臓器が必要な場合に行われる。世界的には1967年に南アフリカ共和国で第一例が実施され、日本では68年に札幌医科大学で実施された、いわゆる和田心臓移植が最初である。当時は、国際的に確立された脳死判定の基準がまだなく、国別どころか、施設別、あるいは実施者ごとに決めていたという状況である。その後、各国ごとに法制化などが進められたが、日本では進展せず、80年代初頭に政府が臨時脳死臓器移植調査会を設置して議論を始め、97年にようやく臓器移植法が作られた。 それは提供者を15歳以上として、本人の意思を尊重することを基本としたが、実施数がいっこうに増えなかった。そこで提供者の年齢制限を撤廃して、子どもから子どもへの臓器移植を可能にし、本人の意思が不明の場合は家族の同意だけで臓器提供ができるように法律を改正。新しい臓器移植法が、2010年7月に施行された。その結果、実施数は増加の傾向を示したが、11年1月現在まで、15歳未満の子どもからの脳死判定による臓器提供は行われていない。また、脳死を人の死とすることについての議論の不足、欧米と比較して臓器移植への理解を得にくい国民性の違い、死生観の違いなどが依然として指摘されている。