ペスト菌(yersinia pestis)を吸い込んで発症する肺炎。ペスト菌は、流行地の健常な野ネズミが保有しており、そのネズミに寄生するノミがヒトへの感染を媒介する。肺ペストは気管支炎から肺炎に急激に進行し、血痰(けったん)や呼吸困難をきたす。致死率は90%以上である。ペスト菌感染症として、他にリンパ節が腫れる腺ペストがある。日本では1926年以来、ペストの発生はない。2010年現在では、住宅の衛生環境整備が遅れているチベット、南アフリカに多く、ヒマラヤ山脈、ロッキー山脈南部、アンデス山脈などの周辺に発生がある。患者の痰や飛沫、エアロゾルからの感染(飛沫感染、空気感染)があるので、厳重な注意が必要である。生物兵器として、エアロゾルに混入したペスト菌を噴霧される危険性があり、恐れられている。治療には抗菌薬が有効であり、治療後の予後はよい。肺ペストは病気の進行がきわめて速いので、特に早期治療が必須である。