歴史上の致死性感染症の中で、もっとも恐れられていたウイルス感染症。天然痘ウイルスはポックスウイルスという仲間に分類されるDNA(deoxyribonucleic acid)ウイルスで、顔面に均一の水疱(すいほう)を作り、ウイルスが水疱から産生され、他のヒトへ感染する。この水疱は瘢痕化する。致死率は20~30%といわれ、飛沫感染する。世界で初めて種痘というワクチンが、18世紀にジェンナーにより開発された。それは、同様に水疱を作るポックスウイルスである牛痘ウイルスの水疱液を接種する方法である。種痘ワクチンは発症後も有効であり、接種後、生涯にわたり天然痘ウイルスに対して抵抗性が付与できる。患者を発見し、患者とその周辺に種痘ワクチンを接種する世界規模のワクチンプロジェクトが行われ、1977年のソマリアの患者以来、発生はなくなった。そこで80年にこのウイルスは地球上から根絶されたと世界保健機関(WHO)が宣言した。根絶により、現在、日本でも種痘は行われていない。しかし、生物兵器として利用される危険性があり、アメリカとロシアが保管するウイルスの破棄が議論されている。