今まで痴呆と呼ばれていたが、痴呆という用語には軽蔑的な意味が含まれるとし、厚生労働省は2004年4月より認知症として一般への普及を図っている。認知症とは後天的に何らかの原因により脳に変化が起こり、判断能力に障害をきたして正常な社会生活が困難な状態になる病態。主な認知症としてアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)や脳血管性認知症、レビー小体型認知症がある。日本では高齢化が進むにつれて認知症患者は増え、05年時点で約170万人と推計されている。日本においては欧米と異なり脳血管性認知症が多いといわれていたが、実際には鑑別診断がはっきりできない場合も多く、アルツハイマー型認知症は増加の傾向にあり全体の4割を占めている。記憶障害が初期症状であるが、進んでくると失語、失認などの見当障害や被害妄想なども見られる。性格変化が著明であるのがアルツハイマー病を診断するポイントでもある。50~60歳くらいに発症することが多く、若年性認知症の代表ともいえる。決め手となる治療法はまだ確立されていない。慶応大学医学部薬理学の西本征央教授は、アルツハイマー病の原因である脳細胞の死を防ぐ物質を作るペプチドを発見、01年5月に科学アカデミー紀要に発表し、この物質をヒューマニンと名づけた。今後、アルツハイマー病の根治薬開発への応用が期待される。一方、脳血管性認知症は多発梗塞性認知症とも呼ばれ、小さい梗塞がたくさんできるために知能障害をきたす。アルツハイマー型に比べ人格が保たれるのが特徴。予防法や治療法は動脈硬化の対処法に準じ、脳循環改善薬や血小板凝集抑制剤なども使用する。いずれの認知症も早期発見をして、周囲のものが積極的に相手をするという基本的な対応が病状の進行を遅らせるために有効。最近、アメリカのソーシャルワーカー、ナオミ・フェイルが開発したバリデーション療法という、認知症の患者とのコミュニケーションの技術が成果を上げている。