ピック病は、初老期に発症する若年性認知症(→「認知症」)の一つであり、人格の変化や不合理な行動を特徴とする疾患。1898年に精神医学者アーノルド・ピックが初めて症例を報告したことから名付けられた。原因は不明で、平均発症年齢は49歳、性別による偏りはない。また、発症頻度はアルツハイマー病の10分の1程度と少ない。アルツハイマー病の初発症状が記憶・記銘力低下といった知的機能低下であるのに対し、ピック病では人格変化、情緒障害などがまず出現し、この際に短期記憶は保たれる。状況に合わない行動、意欲減退、無関心、逸脱行為(反社会的行為)、繰り返し行動、語間代(トウキョウエキ、エキ、エキのように言葉の語尾を繰り返すこと)、嗜好の変化などが見られる際に疑われる。病識はなく、人格変化、感情の荒廃が顕著で、たとえば、人を無視した態度、馬鹿にした態度などをとったり、万引きや窃盗といった反社会的行為で逮捕されるケースも少なくない。うつ病や統合失調症と誤診されているケースも多いといわれている。画像診断(CT、MRI)では、前頭葉および側頭葉を中心とした局所性の脳委縮が認められる。病理所見上、典型例では「ピック嗜銀球(しぎんきゅう)」と呼ばれる神経細胞内の異常たんぱく質凝集体が観察される。発症から死に至るまでの期間はおよそ2~8年で、アルツハイマー病よりも短い傾向がある。今のところ治療法はなく、脳血流の改善や栄養補給などの対症療法を実施するものの、基本的には症状に応じた介護が中心となる。