将来的にかかりうる病気を個別に予測し、治療的介入を行って発症を防いだり、遅らせたりしようとする概念。予測診断には当人の遺伝子情報、たんぱく質、代謝産物、CTやMRIなどの検査装置から得られる生体情報の指標(バイオマーカー)を用いる。従来の予防医学は、特定健康診査(メタボ健診)のように集団を対象とした「集団の予防」であったが、先制医療は個人の遺伝素因や特徴に応じて介入を行う「個の予防」である。2013年にアメリカの有名女優が、遺伝子検査によって将来乳がんになるリスクが高いと判明したため、予防的乳房切除術を施したのもこの一例である。ただし、介入は手術や薬物治療だけではなく、生活習慣の改善といった行動医学的手法も含む。実現すれば高齢化にともなって高騰する医療費や介護費を抑制でき、健康寿命の延長も期待できる。今後の課題として、先制医療に用いるバイオマーカーや治療技術の開発、治療の安全性や有効性の検討などがある。一見、健康な人に対して介入を行う先制医療を社会が受容できるようにしていくためにも、医療倫理・生命倫理面でのさらなる議論も必要である。