薬剤では治療困難な腸疾患に対して、患者の腸内に健常者の糞便を移植して治療する方法。便から食物残渣(ざんさ)を取り除き、便中の腸内細菌を粗精製したのち移植するため、糞便微生物移植(FMT)ともいう。ヒトの腸内には100種類・100兆個以上の腸内細菌が生息しており、そのバランスが崩れることが一因と考えられている症候群(炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、生活習慣病、薬剤性の腸内細菌バランス異常など)への適応も検討されている。2015年末時点で有効性が証明されているのは、主に抗菌薬の使用によって起こるクロストリジウム・ディフィシル感染症のみである。潰瘍性大腸炎に対する有効性を示す報告もあるが、相反する報告もある。日本国内でも炎症性腸疾患、過敏性腸症候群への有効性を検証する臨床試験が進められている。適切な健常ドナーの選別、糞便採取後の腸内細菌の精製方法、有効な移植量・回数や投与経路の確立、安全性の向上などの課題がある。