体外受精によって得た受精卵(胚)の一部を用いて、遺伝病や染色体異常などを、妊娠する前に診断すること。生殖補助医療の進歩にともなう、胚の取り扱いに関する生物学的研究の発展と、遺伝子診断を可能にした分子生物学の進歩を背景に、確立されつつある出生前診断の一つである。1989年にイギリスのアラン・ハンディサイド博士らが、X染色体連鎖劣性遺伝病の診断に、初めて性別診断法を応用した。流産や死産を繰り返しやすい染色体異常などを早期に発見することは、妊娠後の診断で異常が判明して人工妊娠中絶を繰り返すより、母体にとってはるかに安全で、遺伝病のため妊娠をあきらめていた夫婦も安心して妊娠できる。しかし、約3分の1の受精卵では、細胞の一部が異なる遺伝情報をもっている場合があり、診断結果の信頼性に問題が残されている。また、日本では着床前診断をした場合の出産率が極めて低い。日本産科婦人科学会は、「夫婦の強い希望がある場合のみ、十分な知識と経験のある医師・医療機関が学会の許可を得た上で、重篤な遺伝性疾患に限り行う」としている。絶対反対の姿勢を譲らない障害者団体もあるが、障害者を排除する考え方ではない。現段階では、体外受精を受けるという身体的負担と検査費用を考慮すれば、重篤な疾患以外に適用されることはないので、あくまでも母体保護の視点から考えたい。