従来、日本で原子力発電所を建設する場合には、原子炉立地審査指針に基づいて災害評価を行ってきた。「指針」は決定論的評価(deterministic analysis)の立場に立ち、あらかじめ決めておいた重大事故(技術的見地からみて、最悪の場合には起こるかもしれないと考えられる重大な事故)と仮想事故(重大事故を超えるような、技術的見地からは起こるとは考えられない事故)について評価を行うよう求めている。両事故を超える事故もありうるが、そうした事故は想定不適当事故として無視されてきた。そうした事故が起きれば、過酷事故(シビアアクシデント severe accident)となり、1986年4月26日に旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所(Chernobyl nuclear power plant)で事実として起きた。すでに四半世紀以上の歳月が流れたが、40万を超える人々が故郷を追われ、500万を超える人々が本来なら放射線管理区域にしなければならない汚染地で今も生活している。そして、日本でも2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)を受けて、福島第一原子力発電所で四つの原子炉が同時に過酷事故に至った。そのため、原子炉立地審査指針の正当性が根本的に失われ、新規制基準では、炉心溶融確率などを審査することになったが、根拠のある炉心溶融確率の評価を可能にする学問はない。