原子炉内には、運転に伴って核分裂生成物などの放射性物質が蓄積してくる。放射性物質は発熱体であるため、冷却しなければ、炉心の温度が上昇し、場合によっては溶けてしまう。2011年3月に発生した福島第一原子力発電所事故の場合は、全所停電したために冷却のための水を送ることができず、炉心が溶け落ちてしまった。それでも、さらなる事態の悪化を防ぐために、消防車のポンプを使って炉心に水を送ったうえ、電源が回復してからはさまざまなポンプを使って炉心に水を送り続けてきた。そうして送った水は、溶け落ちた炉心に接触した途端に放射性物質を含んだ「放射能汚染水」となる。当初は、外部からひたすら水を送っていたが、そうすると汚染水が一方的に増えていってしまう。そのため、同年7月からは、汚染水を処理して放射性セシウムを除去した「処理汚染水」にしたうえで、これを循環して使用する循環注水冷却を行うようになった。しかし、汚染水がたまっている原子炉建屋の地下などには、周辺から毎日400tもの地下水が流入し、循環注水冷却にした現在もどんどん汚染水が増え、東京電力は101万tまでタンクを増設あるいは更新する計画をたてている。しかし、敷地には物理的な限度があり、増設も無限にできるわけではない。そのうえ、これまでに除去できているのは放射性セシウムだけであるし、この放射性セシウムも消えたわけではなく、ゼオライトなどに捕捉された状態で蓄積してきている。また、ストロンチウムなどセシウム以外の放射性核種は、新たに稼働を始めたアルプス(ALPS 多核種除去装置)で除去しようとしているが、その装置も満足に稼働していないうえ、トリチウム(三重水素)に関しては、全く除去できない。結局、トリチウムに関する限り、希釈して海に流すことになる。