三菱重工業とJAXA(宇宙航空研究開発機構)が次期基幹ロケット(仮称・H-3ロケット)の第1段向けに開発を検討しているロケットエンジン。旧称、LE-Xエンジン。現行のH-2A、H-2Bロケットの第1段に使用しているLE-7Aエンジンの後継であり、LE-7Aと同じく液体酸素と液体水素を推進剤として使用する。LE-7Aが二段燃焼サイクルというエンジン動作サイクルを採用しているのに対して、LE-9はエキスパンダー・ブリードサイクル(expander bleed cycle)という、より構造が簡素になる動作サイクルを採用している。
二段燃焼サイクルは、プリバーナーという小さな燃焼室で、液体水素の全量と液体酸素の一部を燃やした不完全燃焼ガスでターボポンプを駆動、液体酸素と液体水素を主燃焼室に圧送する。ターボポンプ駆動後の不完全燃焼ガスも主燃焼室に送り込み、まとめて燃焼させて噴射し、推力を得る。推進剤の全量が噴射ガスに変わるため高効率で、燃焼室圧力も高くできるが、構造が複雑になる。
エキスパンダー・ブリードサイクルは、日本がH-2ロケットの第2段エンジンLE-5Aで、世界に先駆けて実用化したエンジンサイクル。H-2A/Bの第2段エンジンLE-5Bにも採用されている。エキスパンダー・ブリードサイクルでは、燃焼室壁面内に作り込んだ細管に液体水素を通して、加熱・気化させた高温水素ガスでターボポンプを駆動する。駆動後の水素ガスはそのまま外部に放出して捨てる。二段燃焼サイクルに比べて効率は下がるが、プリバーナーが不要になる分、構造は簡素化される。また、配管故障などの場合も爆発を起こさないという特徴を持つ。ただし、ターボポンプ駆動を燃焼室壁面からの吸熱で加熱したガスという、比較的低エネルギーの動力源に頼るので、第1段用大推力エンジンの実現には、燃焼室の吸熱面積の大型化とターボポンプの高効率化が必須となる。