常温で唯一液体の金属元素。自然界では硫黄と結合し、硫化水銀として存在することが多く、古くから赤色顔料などとして用いられてきた。金属水銀は温度計、圧力計、電極、蛍光灯、水銀灯、歯科用アマルガムなどに利用される。無機水銀の塩化第二水銀(HgCl2)は殺菌消毒薬として、有機水銀は種子消毒や水虫治療薬として使われた。水銀の毒性は形態により異なり、金属水銀は脳内に蓄積しやすく中枢神経障害を、2価の無機水銀は腎障害を起こす。有機水銀の一つであるメチル水銀は公害病の水俣病の原因となった。また、無機水銀は自然界で有機水銀に変換されることが知られている。日本では水銀の使用量は減り続けているものの、途上国ではいまだに金の精錬に使われるなど、環境汚染が止まっていない。そこで、2009年から国連環境計画(UNEP)の主導による、国際的な話し合いが進められ、水銀が健康や環境に与えるリスクを低減するための包括的な規制を定めた「水銀に関する水俣条約(水俣条約)」が、13年10月熊本市で、日本を含む92カ国により採択・署名された。