一般の化学物質や物理的作用によるストレスが生物に与えられたとき、それより低い用量(化学物質摂取量やストレスの大きさ)では有害影響が生じない用量が存在すると考えられており、その用量のこと。用量反応関係においては、無影響量(NOEL)と最小影響量(LOEL)の間に閾値が存在する。どんなに毒性の強い化学物質であっても、用量を閾値以下に管理すれば悪影響の発生をなくせるため、一般の化学物質については閾値がリスク管理の目標となる。他方、遺伝子損傷性を有する発がん物質や放射線による発がんにおいては、どんなに低い用量でもそれに応じた影響が生じ、閾値が存在しないと考えられている。しかし、閾値の有無は実験観察的に証明することは困難であり、想定される作用機序から閾値なしの仮説が支持されているに過ぎない。リスク管理上は安全側に立つケースが多いことも、閾値なしの仮説が支持される理由である。この場合、直線閾値なし仮説あるいは閾値なし直線仮説、LNT仮説(Linear non-threshold)と呼ばれる説がしばしば採用されている。