粒子の位置と運動量、光子の直線偏光と円偏光、xスピンとyスピンなど、量子力学的交換関係が0でない二つの物理量の片方を観測により確定した場合、もう一方の値は不確定となるという関係。同じ状態にある系が多数ある場合には半々に分けて片方の集合で一つの物理量を、もう一方の集合で別の物理量を測定できるが、それぞれの測定値の統計分布の標準偏差の積が一定値(位置と運動量の場合はプランク定数)より小さくならないという関係のことを一般には指し、「不確定性原理(uncertainty principle)」として知られる。理論的裏付けは、H.P.ロバートソンにより与えられた。不確定関係はW.K.ハイゼンベルクが提唱し始めたものであるが、それに異議を唱えたA.アインシュタインに反論するためハイゼンベルクが持ち出した例は、実は上記の不確定関係と異なり、系が一つしか与えられていない場合に片方の物理量を測定した場合の精度と、もう一方の物理量に誘起される「測定の反作用」の間の関係であった。これは測定器が持つ不確定関係が原因となって被測定系にもたらされるものであるが、測定にともなう不確定関係であって、ロバートソンの不確定関係が状態の不確定関係であるのと対照的である。測定にともなう不確定関係は、状態の不確定性に関するロバートソンの理論と違って、一般論としての理論的裏付けはなかった。最近、名古屋大学の小澤正直教授により一般理論が提唱され、これは被測定系と測定系の「状態」と「測定精度」と「反作用」が混ざった不等式で、「小澤の不等式(Ozawa’s inequality)」と呼ばれ、従来の不確定関係を包含するものである。実用上よくあるケースに対しては測定にともなう不確定関係は明確であり、従来の不確定関係を使っていても安心である。