量子コンピューターでないと計算できないような物理現象を汎用量子コンピューターで計算するのではなく、その問題と同等の量子系を人工的に構成し、所望の初期条件の下で自然発展させてその結果を見るような「同等の人工的量子系」で元の量子系をシミュレートすること。たとえば、磁性体(磁石に付き、磁性も帯びる物質)に外部から磁石を近づければくっつくが、引き離したとき、磁性体が磁気相転移を起こすか否か、つまり磁石になるかならないかは、キュリー温度(磁性体に磁化が現れる固有の温度)以下か以上かによる。このような相転移現象をミクロなモデルで扱う方法としてイジングモデル(Ising model)やXYモデル(XY-model)、ハイゼンベルクモデル(Heisenberg model)があるが、結晶の次元を1、2、3と上げると、通常のコンピューターでシミュレーションするには計算量が多過ぎて計算困難となる。これを計算するため、元の磁性体を人工的量子系で模倣する。人工的量子系として最も有望なのは、光格子(optical lattice)に閉じ込めた原子の列が作る人工結晶であるが、他にも電場で捕獲したイオンの列や互いに相互作用し合うパラメトリック発振器(parametric oscillator)の列が考えられる。