単一光子の波長を別の波長に変換することであり、そのうち特に当該の単一光子の量子状態を変えず、波長だけを変えるものをいう。量子状態は目的に応じて偏光状態であったり位相であったり、その両方であったり、またそれらがどこか別の場所にある量子系とエンタングルしているならば(→「エンタングルメント」)、その状況を壊さずに波長だけを変えることが要求される。すなわち、「単一光子を検出したら、別の波長の単一光子を発生する」といった装置では位相や偏光やエンタングルメントを保持することはできないので、このような波長変換は単一光子波長変換には含まれない。この技術が必要となるのは、たとえば光ファイバー通信では波長1.5μm(マイクロメートル:10-6m)のいわゆる通信波長帯以外は使えないが、物質メモリーのほとんどは波長0.9μm以下の光にしか感じないという問題があるからである。仮に、1.5μmの光に感ずる物質メモリーが開発されるなどしてこの問題が解決したとしても、いずれ波長多重量子通信ではいろいろな波長の光子が使われるので、単一光子波長変換は欠かせなくなる。
単一光子波長変換を行う方法としてよく使われているのは、非縮退パラメトリック効果という、二次の非線形光学効果(入射光の振幅の2乗が関係する、比例関係ではない効果)をもつ媒質を利用した「和周波発生」や「差周波発生」である。つまり、「パラメトリック下方変換」によって二つに割れ、それぞれの周波数をもつようになった光子が、その和・差の周波数をもち、波長変換された1個の光子になる。このため「単一光子周波数変換(single-photon frequency conversion)」と呼ばれることもある。この技術は単一光子でなくとも、目に見えるほど強いレーザー光であれば古くから用いられてきたが、もちろんそれでは量子状態は保持できない。また、単一光子波長変換についても、量子状態を保持しないタイプのものはここ十数年ほど行われてきたが、「量子状態を保持する単一光子の波長変換」が実現したのは比較的最近のことである。原理的には100%の効率が得られるはずであり、光子は吸収されてしまうことなく効率100%で変換できる。現状における実際の効率は70%ほどであるが、これも日進月歩であり、100%に近くなるのは時間の問題と考えられる。効率以外には、ラマン散乱(散乱光が分子の振動エネルギーの影響で入射光と異なる波長で散乱する現象)による余計な光子の発生があるため、変換前と変換先の波長の関係は多少制限があるが、これも進歩途上にある。また近年、相互位相変調(cross phase modulation)という三次の非線形光学効果をもつ媒質を利用する方法もあり、これは変換前後の波長関係はより不自由となるが、効率の点では100%近くにしやすい。