量子力学において物事の時間発展を決める基本的な方程式。対象が何であれ記述できる一般的な方程式であるが、E.シュレーディンガーが一連の論文のうち最初の論文(1926年)で導いたのは、波動性も考慮する波動関数を導入して一つの電子の状態の時間発展を記述するという、より具体的な方程式である。その論文中には、応用問題として水素原子中の電子に対するシュレーディンガー方程式が解かれており、水素原子の発光および吸収スペクトルの実験データを完璧に説明できた。そのため、一躍量子力学の基本方程式として認知された。以後、水素以外の原子や分子、イオン、そして固体結晶中の電子のエネルギー状態が次々と解明され、「なぜ固体には導体、半導体、絶縁体、半金属などの種類があるか」が明らかになった。さらに、物体の固有の色も、異なるエネルギー状態間を電子が飛び移る際に放出される光子の波長であると説明がつくようになり、化学反応が起こる確率なども計算され、科学のあらゆる分野に適用された。
シュレーディンガー方程式は、同じく物事の時間発展を決めるハイゼンベルクの運動方程式(Heisenberg equation of motion)と同等の役割をもつが、記述の仕方はかなり異なる。ハイゼンベルクの運動方程式は位置、運動量、速度など、いわゆる物理量の時間発展を決める式であり、その意味では古典力学におけるニュートンの運動方程式と似ている。違いは、量子力学では位置や運動量などは数ではなく演算子と見なさなければならない点で、思考の転換が必要である。
シュレーディンガー方程式は波動方程式であるという点で、マクスウェルの方程式から導かれる電磁波の波動方程式と似ている。違いは、マクスウェルの方程式が二次微分だけから成るのに対し、シュレーディンガー方程式は時間に関して一次微分、空間微分に関して二次微分である点である。この整合性をとるため、虚数単位「i」の導入が避けられなかった。このiはsinやcosの計算を便利にするために導入されたものではなく、本質的に入ってきたものである。また、波動方程式というからには音波、電磁波、弦の変位の波など、物理的意味がなければならないが、シュレーディンガー方程式が記述するのは「物質波、すなわち複素数値をとる振幅の絶対値の2乗が“その粒子がそこに見いだされる確率”となるところの“波”」である。なお、「シュレーディンガー」の正式な欧文表記は「Schrdinger」。