スピンを磁場中におくと、スピンが磁場に平行な状態と反平行な状態で磁場に比例したエネルギーの差分、すなわちゼーマンエネルギー(Zeeman energy)が生じる。磁場中でスピンが反転すると、この差分に対応するエネルギーが発生することになるが、これを電気的に取り出すことに成功したのがスピン起電力である。強磁性体であるMnAs(マンガンヒ素)のナノスケール微粒子(nm : 10-9m=10億分の1mレベルのスケールの微粒子)を含む磁気トンネル接合素子(magnetic tunnel junction device)において、電子のトンネルがクーロンブッロケードにより抑制されている状況で、スピン反転をともなうトンネル効果が生じることにより、表に取り出せる電圧として観測された。この起電力は過渡的な現象であるが、10分以上持続することが確認されており、磁気エネルギーを電気エネルギーへ変換する新しい電池などに応用できる可能性がある。また、実験に用いた素子は、ゼロ磁場ではクーロンブッロケードによる絶縁状態を示すのに対し、磁場を印加すると、ある程度電流が流れる特徴がある。このため、極めて大きな磁気抵抗効果が現れることから、超高感度磁気センサーとしても期待されている。