近年、ナノ粒子をマーカーとして利用する試みが盛んに行われている。Cd-Se(セレン化カドミウム)の量子ドットは、退色しやすい蛍光分子の代わりに蛍光マーカーとして用いられている。また、金のナノ粒子は古くから金コロイド染色法として、抗体とともに特定物質の検出に用いられている。さらに最近になって、酸化鉄ナノ粒子などの磁性ナノ粒子がさまざまなマーカーとして用いられはじめた。例えば、抗体と組み合わせて生体中の抗原検出を行うためのツールとして、あるいはDNAとの結合性を利用した、遠心や濾過(ろか)を必要としないDNA分離精製用ツールとして、さらにはがんの温熱治療であるハイパーサーミア(hyperthermia)によるがん治療の一助として幅広く利用されている。温熱治療で知られるように、がん細胞は正常細胞より熱に弱く、その性質を利用したがん治療は、広く試みられている。しかしながら、この温熱治療は患者への負担が大きいことから、局所選択的な加熱が可能な手法の開発が進んでいる。そこで近年、磁性ナノ粒子を利用した治療法に注目が集まっている。がん細胞と結合しやすい物質を表面に修飾した磁気ナノ粒子を体内に注入し、磁気ナノマーカーとしてMRIなどの磁気共鳴イメージング装置を用いて位置を確認するとともに、高周波磁場を印加することで局所的に温度を上昇させ、がん細胞のみを選択的に除去することが、その目的となる。