組成式MoS2で表される二硫化モリブデンは、層状の結晶構造をもつ。各層は単層のモリブデンの両側を硫黄がはさんだ形であるが、硫黄同士の結合が弱いため、グラフェンと同様に層状に剥離(はくり)することができる。層間の滑りがよいために固体潤滑剤として広く用いられてきたが、最近、単層の二硫化モリブデンフィルムがグラフェンと同じくトランジスタとして動作することが確認された(→「グラフェントランジスタ」)。グラフェンのように価電子帯と伝導帯が限定的に接しているゼロギャップ半導体にはならず、キャリア(電子や正孔。電荷の移動の担い手)の移動度は小さい。しかし、有限なバンドギャップ(価電子帯と伝導帯の間にある禁制帯)があるために、逆にトランジスタの基本性能である「オン」「オフ」状態が作りやすい利点があり、原子1個の厚さからなる単原子層からなる究極の二次元トランジスタの観点から期待がもたれている。