量子ドット(電子を三次元のどの方向にも閉じ込められる構造)に電子が蓄積したときに生じるクーロン相互作用(この場合は、マイナスの電荷をもつ電子同士の間に働く斥力で、クーロン反発力)を利用して論理回路などを構成する試みが提案されており、量子ドットセルオートマトンと呼ばれている。図「量子ドットセルオートマトン」に示すように四つの量子ドットが正方形に並んだものを一つのユニットとし、このユニットに電子を二つ入れることを考える。電子間にはクーロン反発力が働くため、電子はできるだけ遠ざかろうとして、右下と左上のドットに入るか、あるいは右上と左下のドットに入るかのどちらかの状態になる。図の(1)のようにユニットが空間的に離れている場合、この二つの状態はエネルギー的に同じで、これをそれぞれロジックの「0」と「1」に対応させる。ユニットを相互にクーロン相互作用が生じるぐらい近接させて線上に並べると、端のユニットの状態が「0」であれば、図の(2)のように電子のクーロン反発力で順次「0」に変化して行く。すなわち、「0」あるいは「1」の信号を伝搬することができる。さらに、図の(3)のように、ユニットを二次元的に並べて交差点を作ると、中央のユニットが「0」になるか「1」になるかは、周囲のユニットに「0」が多いか「1」が多いかで決定される。
「+」「-」「×」「÷」のような演算を行う際に、電子回路では「NOT」「OR」「AND」などなどのロジックゲート(logic gate)用いることになるが、量子ドットセルオートマトンでは、電子を固定するユニットを「0」にすれば、両側の入力に対して「AND」として働くロジックゲートを作ることができ、固定するユニットを「1」にすれば、両側の入力に対して「OR」として働くロジックゲートを作ることができる。理論の提案以降、半導体量子ドットで作製することが試みられてきたが、最近、分子系の材料でこのような構造を作ることが提案されており、半導体の場合よりも高温で動作する分子型量子ドットセルオートマトン(molecular quantum dot cell automaton)の出現が期待されている(→「分子ナノエレクトロニクス」)。