モスは英語で昆虫の蛾(が)を意味し、モス・アイは蛾の目である。蛾の目の表面にある、100nm(ナノメートル nは10-9=10億分の1)程度の間隔で突起物が規則正しく並んだモス・アイ構造(moth eye structure)は外から目に入ってくる光を何度も屈折させて、広範囲の波長や斜めから入射する光の反射を抑える働きをする。反射を防いで光を有効に取り入れることで、蛾は夜間の薄暗い環境でも正確に視認することができる。生物が有するナノ構造が光に作用する点は構造色と同じであるが、構造色が光の反射によって鮮やかな色を発するのに対し、モス・アイ構造は光の反射を抑制する働きをする点が異なる。ナノインプリントを用いて金型から光学樹脂にナノ構造を転写し、高さ200nmの突起物が表面に無数に規則正しく並んだモス・アイ構造を作ることで、光の反射率を0.5%以下に抑えたモス・アイ・レンズが作製できる。このモス・アイ構造の原理はシャープの一部の液晶テレビで「モスアイパネル」として実用化されており、表面で光が反射して映り込みが発生するのを防ぐことに利用されている。なお、「モスアイ(MOTH EYE)」は大日本印刷の登録商標である。