電子が存在できるバンドが、上向き(下向き)のスピンに対しては途中まで満たされており、一方、下向き(上向き)のスピンに対しては完全に満たされている材料をハーフメタルという。バンドとは、ある物質における電子のエネルギー準位によって広がる帯状構造のことで、半導体においては「電子が自由に動ける伝導帯」「電子が満席状態で動けない価電子帯」「電子が存在できない禁制帯」がある。また、スピンとは電子の自転のことで、それに由来する磁気モーメントによって上向きと下向きがある。完全に満たされているバンドでは電子が動くことができず、伝導に寄与しないので、ハーフメタルは上向き(下向き)のスピンに対しては伝導体、下向き(上向き)のスピンに対しては絶縁体あるいは半導体として振る舞う。このため、電流を担う電子のスピン偏極率(スピンの向きが一方向に偏る率)は100%になり、電子スピンの流れを利用するスピントロニクスにおいて、高効率のスピン注入や、スピンに依存したトンネル特性を利用する磁気トンネルデバイス(magnetic tunnel device →「磁気トンネル接合」)の特性改善が期待される。これまで、ハーフメタルとしては、化学式ABO3で表されるペロブスカイト構造酸化物のLa1-xSrxMnO3(「ABO3」のAサイトにLa〈ランタン〉とSr〈ストロンチウム〉、BサイトにMn〈マンガン〉があり、LSMあるいはLSMOとも呼ばれる)などが知られている。スピン偏極率が高温で低下する問題があったが、AサイトにCa(カルシウム)とCu(銅)、BサイトにFe(鉄)とRe(レニウム)を配置することで、十分な高温まで高いスピン偏極率が得られる材料が実現された。これらのハーフメタルの作製や加工技術が進歩し、ナノ領域の構造を確立できるようになると、スピンを用いたデバイスに大きく貢献することが期待される。なお、価電子帯と伝導帯がわずかに重なり、金属と半導体の間に位置する材料や、金属的な元素と非金属的な元素の間にある元素を呼ぶときに使う半金属(semimetal)と混同しないように注意する必要がある。