電子はマイナスの電荷を有しており、電子と電子の間には同じ符号の電荷同士が反発しあうクーロン反発(Coulomb repulsion)が生じる。この作用が顕著に現れると、多数の電子がお互いの反発で互いに「にらみあい」動けなくなる状態が生じる。これが、電子が結晶化した状態であるウィグナー結晶で、1934年にその存在が予言されていた。電子の運動エネルギーの影響がクーロン反発に比べて小さくなる、そうした極めて電子密度が小さい領域や強磁場中でこの現象が顕著になると予想される。このウィグナー結晶の存在が、最近、高感度な核磁気共鳴(NMR)技術(→「核スピンエレクトロニクス」)を用いて明らかになった。NMRの特徴として、原子核の自転である核スピンの共鳴周波数は、接触している電子のスピン状態を反映したわずかなシフト(変化)を示す。これをナイトシフト(knight shift)という。ウィグナー結晶が形成されると、結晶中の「電子が局在する部分に存在する核スピン」と「電子がいない部分に存在する核スピン」は異なるナイトシフトを示すことになる。このため、電子系が一様に広がっている状態とは明らかに違うNMRスペクトルが測定されることから、ウィグナー結晶の存在が確認できた。高感度NMRを用いた同様な測定は、ウィグナー結晶以外の電荷やスピンが空間的に秩序構造をもった状態の解明にも役立つことが期待される。