「トランスデューサー」とは、ある物理量を異なる物理量に変換する変換器のことであるが、異なる物理量の間の変換を量子力学的な性質を保ったまま行うものを量子トランスデューサーという。電子や原子核の自転ともいえるスピンは、それに由来する磁気モーメントによって上向きと下向きがあり、このスピンもまた上向きと下向きが量子力学的に重ね合わさっている。また、光の最小単位である光子の偏光(波形の向きの偏り)も垂直方向と水平方向が重ね合わせの状態にある。量子トランスデューサーはこうした性質を利用して量子ネットワーク(quantum network)を形成するのに不可欠な要素であり、さまざまな量子ビット(0の状態でもあり1の状態でもある量子力学特有の重ね合わせをもつ量子情報の最小単位)の量子情報をフォトン(光子)に載せて結合させるシステムや、量子演算を行う素子と量子メモリーの間における量子情報の変換などが考えられる。長距離に量子情報を伝搬するにはフォトンが不可欠であるが、量子ビットとフォトンを量子的に結合させることは難しい課題であり、研究が進められている。具体的には、スピン量子ビット(spin qubit)の量子情報をフォトンの偏光に載せる変換システム、また超伝導量子ビット(superconductor qubit)とマイクロ波が量子的に結合したシステムを、固体中のスピンやメカニカルシステムのフォノン(音の最小単位)を介在してフォトンに結合する変換システムが実験されている(→「マイクロマシン/ナノマシン」)。量子メモリー(quantum memory)実現へのアプローチとして、操作性の高い電子スピンと量子的性質が長く保たれる核スピンの間で量子情報を変換する量子トランスデューサーも考えられている。