電子が導体中を伝わるとき、さまざまな散乱(scattering)を受けながら伝播し、この散乱の様子が抵抗を決定する。電子が散乱を受ける間隔より小さな構造を作るか、欠陥の少ない構造で散乱の間隔を長くすると、電子は散乱を受けずに構造中を伝播する。このとき電子はあたかも拳銃から発射された弾のようにまっすぐに進むので、弾道を意味する英語「バリスティック」を用いて、このような伝導をバリスティック伝導という。この理想的な状況では導体内の抵抗はなくなるが、チャンネルに電子を入れるために発生する、ある種の接続抵抗は必ず残る。バリスティック伝導に対応する特性は、特に低温において明瞭に観測され、チャンネルの幅が狭い場合は、一次元閉じ込めに対応した量子化コンダクタンス(quantized conductance)が確認されている。カーボンナノチューブやグラフェン、ナノスケール(10億分の1mスケール)の半導体ナノ構造では高温までバリスティック性を示す伝導現象が示されている。バリスティックに進む電子は境界に衝突すると散乱されるので、境界の影響を受けることになるが、電子間相関が強い場合には、境界付近を通る電子が他の電子が境界に近づかないようにする働きをする場合がある。このような状況では、電子集団は単純なバリスティック伝導を超える電流を運ぶことが可能になる。この現象は超バリスティック伝導と名付けられ、グラフェンでは実験的に確認されている。