スピン(電子の自転で、上向きと下向きがある)の自由度も取り入れたトランジスタが注目を集めている。通常のシリコン電界効果トランジスタで、電流を注入する二つの電極を強磁性体に置き換えたデバイスでは、左右の電極の磁化の向きが平行のときには通常のトランジスタとして動作するが、反平行のときにはチャンネルに電子がたまってもスピンの向きの制約により電流が流れない。この機能をうまく利用すると、スピンの自由度により機能が増したトランジスタを作ることができ、強磁性体電極を磁気トンネル接合(MTJ)に置き換えた改良型も開発されている。
もう一つのタイプで、チャンネルを電子が走る間にスピンが回転することを利用するものもある。たとえば、左右の強磁性電極のスピンの向きが平行な場合を考える。片方の電極から注入された電子スピンの向きがチャンネルを走る間に回転するとき、スピンの回転により、反対側の電極に到着したときにスピンの向きが逆向きになると電流が流れなくなる。さらに回転して同じ向きになると、再び電流が流れる。スピンを回転させるには磁場を加える方法や、電子が走る軌道とスピンの相互作用を利用するものなどがある。後者の場合、スピンの回りやすさをゲート端子に加える電圧で制御できるため、ソース端子からドレイン端子への電子の移動をゲート電圧で調整するユニークなトランジスタが実現できる。微細なサイズのトランジスタを実現するには、短い距離でスピンを回す大きな相互作用が必要で、軌道とスピンに強い相互作用のある材料の探索が続けられている。