地球内部のダイナミクスに関する新しい概念。日本の地震学、地球内部物理学の研究から生まれた。スラブ(slab)は、プレートの沈み込み帯で、マントルに潜り込んでいくプレートのこと。スタグナントスラブとは、スラブが上部マントル中で停滞していることを意味している。沈み込んだプレートは、深発地震の震源分布として、深さ660kmにまで達していることが知られていた。最近の地震波を用いたトモグラフィー(→「地震トモグラフィー」)の研究から、場所によって地震波速度の速いところや遅いところがあることがわかってきた。スラブは冷たくなったプレートが沈み込んだものなので、周囲のマントルより温度が低く、地震波速度が大きくなっている。そのイメージングから、深さ660km付近のマントルに沈み込んだスラブが蓄積されており、一時的にプレートの潜り込みが停滞しているような状況を示している。その原因は、深さ660kmの深度でマントルを構成する鉱物の結晶構造が変化し、上部マントルのリングウッダイトがペロブスカイト(→「ポストペロブスカイト」)へと転移する相変化がマントル物質の上下方向の運動を妨げていることによるものと考えられている。スタグナントスラブの運動は、2006年にリメーク版が公開された映画「日本沈没」において、日本列島の地殻変動の原因として取り上げられている。最近の研究では、スタグナントスラブの形成や崩壊が、東アジアの日本海や東シナ海などの縁海の形成や火成活動と関係していることなどが示唆されている。