研究者のキャリアパスとは、大学卒業後に研究職に就く人々が、どのような職歴をたどっていくかということである。近年、日本の若手研究者は、キャリアパス上の深刻な問題に突き当たっている。毎年1万6000人ほどの博士課程修了者のうち、就職ができるのは全体の約6割と見られる。また、約18パーセントが不安定なポスドクの身分となっている(2011年の文部科学省委託調査)。1990年以来、大学の博士課程学生定員が2倍以上に拡張したのに、卒業者を採用する大学の雇用枠が増えなかったことや、企業による博士号取得者の雇用が進まなかったのがその原因である。この就職難に対応して、第一期科学技術基本計画ではポスドク1万人計画による臨時雇用を作り出した。だが、ポスドク期間終了後の雇用の確保がなされていない、あるいはまた、任期付き雇用が広まったため、不安定な雇用しか提供されない状態になった。不安定雇用されているポスドクは、文部科学省の調査で2009年に1万5千人(延べ数では1万7千人)、12年にはやや減少は見られるものの1万4千人(延べ数では1万6千人)を超えている。キャリアパスの困難を抱えている者が、大学での非常勤講師などを掛け持ちしていることなども勘案すれば、実数はこれより多いとみられる。詳細な追跡調査はようやく始まったところであるが、その開始時点である14年の科学技術・学術政策研究所の予備的調査によると、不安定雇用から正規職に移行できるのは毎年6パーセント程度である。この種の不安定雇用では給与が低いことが多く、いわゆ るワーキングプアの高学歴版(ノラ博士などとも呼ばれる)を多数生み出した。その結果として、博士課程への進学者の減少が現実化し始めている。少子化にともなう人材不足が将来予測されている現在、大学教員定員枠の見直し、無定見な任期付き雇用の制限、高等教育 予算の増額、さらに不足が確実な初等中等学校教員職への誘導や、ベンチャーの起業の奨励など、抜本的な対策が望まれる。第四期の科学技術基本計画では、研究者のキャリアパスの多様化が課題として含められた。また、第五期科学技術基本計画では、若手向け任期なしポストの拡充や大学の若手本務教員の一割増しなどがようやく課題とされた。なお、キャリアパス上の困難は、ヨーロッパでも類似の現象がみられる。