科学研究は、その誕生以来、個人の好奇心の満足のための活動とされてきた。 このような科学者の内部に向けた「学問のための学問」は、モード1の科学と呼ばれる。しかし20世紀には、科学は国家や企業のために展開されることが増えた。アカデミックな科学研究も影響を受け、目的志向でプロジェクト型の産業化科学(industrialized science)の発展につながった。他方、最近になって比較的アカデミックな科学研究分野でも、地球環境問題研究のように、明確に目的志向の課題が登場した。そこでは、文理をまたがる多数の研究者が協働して問題を解く。従来の学際的(interdisciplinary)なあり方とは異なり、超領域的(transdisciplinary)に研究が行われる。知識生産の拠点も、大学や産官学の研究機関に限られなくなり、国境を越えて必要な知識が迅速に流通することも普通である。このような新しい研究のあり方を、マイケル・ギボンズらの研究者は、モード2と名付けた。モード2の科学は、技術開発に限らず科学研究にも共通して見られるようになっていて、新たな知識生産のあり方として注目されている。モード2の科学や、レギュラトリーサイエンスに見られる科学研究のスタイルは、これまでの通常の科学のあり方とは異なっており、ポスト・ノーマルサイエンス(post-normal science)と称されることもある(→トランス・サイエンス)。なお、技術におけるオープン・イノベーションも、モード2の科学のあり方と関係がある。