部分の構造と全体の構造とが同形ないし相似形であるという性質を意味する用語。自己相似性の概念は「平均的な構造とそのまわりのゆらぎ(fluctuation)」という、物理現象に対する伝統的な見方とはまったく異なる見方を提供し、それを示す現象は広く存在する。二次相転移(→「相転移」)の臨界点(critical point)は、ミクロなゆらぎがマクロなスケールに発達して新しい秩序構造を作り出そうとする点であるから、そこでは平均値プラスゆらぎという描像が破れゆらぎの空間構造は自己相似性を示す。B.マンデルブロによるフラクタル(fractal)概念の発見は、臨界点のような特殊状況に限らず自然界に広く自己相似なパターンが存在することを明らかにした。雲の形や海岸線などの地形、河川や樹木などの枝分かれした構造にもフラクタルが見られる。また、数学的な対象としてはカオス運動を表す奇妙なアトラクターもフラクタル構造をもっている。物理量のランダムなゆらぎは、通常はある平均値のまわりの釣り鐘型の確率分布で表されると仮定されるが、自己相似なシステムでは確率分布は逆べき分布(inverse power law)に従う。出現頻度と順位の関係を表すジップの法則(Zipf's law)は逆べきの指数が1に等しい場合であり、英単語の使用頻度や電子デバイス中の雑音など総じて1/f雑音(1/f noise)として知られるさまざまな現象に現れる。また、指数が1とは異なるより一般的な逆べき法則も、地震のサイズと発生頻度に関するグーテンベルク・リヒター則(Gutenberg-Richter law)やスケールフリー・ネットワークの構造など広く見られる。