波は普通空間的に広がっているが、粒子のように局在し、互いに衝突しても形を変えず安定に伝播するような波があり、これをソリトンと呼ぶ。歴史的には、運河を伝わる水面波として最初に発見されたが、その後プラズマ物理学、低次元物質、非線形光学、素粒子物理学などさまざまな物理分野とのかかわりが認識され、また数学的にもきわめて奥深い対象であることがわかってきた。ソリトンはいろいろな波長をもつ正弦波成分からなっている。波長の異なる正弦波は異なる速度をもつという性質(分散性 dispersion)からはソリトンはたちまち崩壊するはずだが、それは振幅の小さいいわゆる線形波動現象に対してのみ正しい。ソリトンは本質的に非線形波動(nonlinear wave)であり、波を1カ所に集中させようとする非線形効果と分散効果とのバランスによって一定の波形が安定に保たれる。ソリトンはエネルギー散逸が無視しうる媒質で成り立つ概念であるが、エネルギー散逸の大きい非平衡開放系(→「開放系」)でもまったく違った機構によって局在した安定な波動が存在する。神経繊維などの興奮系(excitable system)を伝播するパルスがその典型である。このような波は衝突によって対消滅する点がソリトンと異なる。孤立波(solitary wave)という用語はこのような波を含めた広い意味で用いられている。