ディラック方程式により電子が障壁を透過する量子力学、すなわちトンネル効果(tunnel effect)を相対論的に扱った場合、障壁の高さが静止質量の2倍以上だとトンネル効果による透過率が大きくなる。通常のトンネル効果では、透過率は障壁の高さとともに急激に減少する。ところが、このトンネル効果では、これとは逆のパラドックス的な傾向を示す。これは、ディラックの海(Dirac sea)という相対論的電子論での負エネルギーに電子が詰まっているとする考えによる共鳴トンネル効果(resonante tunnel effect)として理解される。グラフェンやカーボンナノチューブ等での電子の集団運動に見られるカイラル準粒子(chiral quasiparticle カイラルとは、右手系・左手系の区別)、すなわちスピノル場(spinor field 2乗してベクトルになるのがスピノル)で記述される準粒子が障壁を抜けるトンネル効果において、このクライン・パラドックスが実験で実現されている。