もともとは液体中を浮遊する微粒子のランダムな運動を意味し、植物学者のR.ブラウンが200年近く昔に発見した現象である。そこではランダムな運動は熱運動を行っている媒質分子(たとえば水分子)が微粒子に衝突を繰り返すことによる。相対論や光電効果の発見で名高いA.アインシュタインのもう一つの偉大な業績がこのブラウン運動に関するものである。彼はブラウン粒子の拡散係数に対する表式(絶対温度に比例し、媒質の粘性係数に逆比例する)を理論的に導出した。これは現代の非平衡状態の統計力学(non-equilibrium statistical mechanics)において中心的な役割を果たす法則である揺動散逸定理(fluctuation-dissipation theorem)のさきがけと見なせるものである。ランジュバン方程式をはじめとするブラウン運動の数学的モデルは、物理学のみならず現代科学のさまざまな分野に現れるランダムな過程を記述するモデルとして用いられている。たとえば、株価の変動に関するブラウン運動モデルはその一例である。