物理学で粒子といえば力学法則に従って受動的に運動する質点をイメージするが、一般に内部自由度をもった物的単位にまで粒子の概念を拡張すると、能動的に運動する「粒子」がさまざまな形で自然界に存在することがわかる。そして、それらを構成要素とする集団は、たとえば渡り鳥や魚群に見られるようにしばしば見事な集団的振る舞いを見せる。T.ヴィチェックらが1995年に提出したモデルによれば、任意の方角にある決まった速さで運動できる性質をもつ要素間で互いの運動方向を調節しあう単純な相互作用ルールを導入すると、要素がばらばらな運動方向をもつために集団としてはまったく秩序を欠いた状態から、ある方向性をもった集団運動状態が突如現れる一種の相転移現象が見られる。転移を引き起こす重要なパラメーターは集団のサイズである。車も一種の自己駆動粒子とみなされるが、高速道路における渋滞の発生も一種の相転移と考えられる。個々の動きがとれなくなるようなこうした転移はガラス転移に類似した現象であり、これらを総称してジャミング転移(jamming transition)と呼んでいる。ソフトマターの分野でも、レーザー光を照射すると一定方向に走り出す自走コロイド粒子系など、適当な非平衡条件下で能動的な振る舞いを見せる自己駆動粒子集団が知られており、このような物質系はアクティブマター(active matter)と呼ばれている。