金属、絶縁体、半導体など、物質の電気的性質の違いを説明する最も基本的な近似理論はバンド理論(band theory)である。バンド理論では、各電子は結晶格子が作る周期ポテンシャル中を独立に運動するものと見なされるので、時間的空間的に平均化された電子間の相互作用は考慮されているものの、電子間の相関は無視されている。そのため、バンド理論では金属になるはずの物質が、現実には絶縁体になる数々の例がある。これは格子の同じサイトを占めようとする電子の間に強い反発力が働くため、各電子が一つの原子のまわりに局在し、結晶中を動きまわることができなくなるためである。したがって、たとえば圧力を変化させると格子間距離が変化して電子相関の強さが変わるので、金属状態から絶縁状態へ、あるいはその逆の転移が突然起こる。この金属非金属転移(metal-nonmetal transition)はモット転移と呼ばれ、F.モットが1949年に初めて理論的に扱った現象である。半導体で不純物濃度を変えても、この転移は起こる。しかし、電子相関によるこのような金属非金属転移の本質は、いまだ不明の部分がある。高温超伝導を示す銅酸化物などにおいて、電子が局在した絶縁体が少し条件を変えただけで超伝導状態に転移することが知られているが、いまだ理論的説明のないその機構は、モット転移の本質に関係していると思われる。