宇宙マイクロ波背景放射(CMB ; cosmic microwave background radiation 宇宙から等方的にやってくるマイクロ波)の強度の大きなゆらぎに対して、全天での分布が詳細に観測されるようになり、その分布状況を示したマップが得られている。次の課題は、より小さなサイズのゆらぎと偏光について、全天のマップを描くことである。偏光していない光線でも鏡で反射された光は振動方向が偏って偏光するようになるのと同様、散乱光は一般に偏光している。ビッグバン宇宙の黒体放射(black-body radiation 物体が放射しているとき、その物体の温度のみに依存して波長ごとの明るさの分布をみせること)は全ての偏光の成分を均等に含んでいるため偏光していない。ビッグバンの約38万年後、光子と電子が反応しなくなった脱結合期と、この際直進できるようになった光子が散乱した最終散乱期を宇宙の晴れ上がり(transparent to radiation)というが、この時期以後に散乱を受ければ、視線との関係で特別の偏光成分が排除されるので、偏光した放射になる。この偏光の向きが全天の方向によってどう変わるかを描いたのが、CMBの偏光マップである。
この観測はプランク衛星などの観測衛星によるもののほか、地上観測もいくつかなされている。地上観測では固定した小角度領域に限られるが、南極のBICEP(Background Imaging of Cosmic Extragalactic Polarization)グループは偏光マップにBモードと呼ばれるパターンを観測した。CMBには振動方向の偏りによるBモードとEモードの偏光パターンがあり、Bとは磁力線状、Eモードとは電力線状の意味である。Bモードは、星間空間の銀河磁場によって形状方向が整列したダストや、同じく近傍での重力レンズ効果に起因するものもあり、BICEPグループの観測もその可能性がある。一方で、銀河のシンクロトロン放射(加速された電子が軌道を曲げられる際に光子を発する現象)などがCMB波長域の背景放射にノイズとして混入する可能性もある。これらの近傍の要因を排除するには、多波長と大角度までを含むパターンのデータが必要になり、衛星での観測が待たれている。