近年の計算機のハード、ソフト両面の著しい発展により、それまで実質的に不可能であった、巨大な計算を伴う作業が可能になり、それに伴って、計算化学、あるいは計算機化学とも呼ばれる、コンピューターを研究の中心手段とする化学の新しい分野が現れてきた。分子の構造やエネルギーを計算する分子軌道計算(MO計算 ; molecular orbital calculation)では、理論的に導いたパラメーターを用いるab initio法(アブ・イニシオ法)が主流である。分子軌道計算はすでに前世紀前半に方法としては確立していたが、コンピューターの発展によって初めて、化学的に興味のある系の計算が可能になった。他に、分子を力学モデル、つまり原子をパチンコ玉、結合をパチンコ玉をつなぐばねに近似させる分子力学法(MM法 ; molecular mechanics method)、分子集団系の運動方程式を解いてそれぞれの分子の軌跡を求める分子動力学法(MD法 ; molecular dynamics method)、シミュレーションを乱数を用いて行うモンテカルロ法(MC法 ; Monte Carlo method)などに分類される。データベースの利用、分子構造の可視化(コンピューターグラフィックス)も重要な分野である。