初期近代の倫理的主題は、経済的市民社会の興隆を反映して、古い封建的制度に対抗するために、個人の「生命と財産」を法的にも倫理的にも保全することにあった。ロック(John Locke 1632~1704)的な「生命と財産」は社会契約の基本条項であり、これを国家に要求すると同時に、国法を順守する道徳が生命と財産を保護し、ひいては個人の生活全体を保護することになる。
交換主義体制がほころびをみせている現在、倫理も新しい理念を模索しなくてはならない。人類は相互行為の倫理原則を贈与と交換の二つの形式で処理してきたが、交換一元論で処理できないなら、贈与原理に助けを求めなくてはなるまい。こうして現代倫理思想は、一見古そうにみえる贈与原理を倫理内容にしようとしている。弱いものを助けること、異邦人を歓待すること、相互に扶助すること、要するにホスピタリティー(あるがままに他人を迎えること)こそ、現代の倫理である。