心と身体を、何らかの意味で別ものとみなす二元論(dualism)は、古来広く見られた思考と言える。精神と物体(身体)を二つの実体として峻別したデカルト(Ren Descartes 1596~1650)の思考がしばしばその典型とされる。しかし二元論には、例えば心身の相互作用をどう説明しうるかといった難問が生じざるをえない。
他方、一元論(monism)には、さしあたり三つの立場がありうる。物質のみを実在とし心的現象を身体のありように還元する唯物論(materialism)ないし物理主義(physicalism)、心的作用から独立した事物の実在性を認めない唯心論、心的・物的なものに先立つ何かを実在とする中立的一元論である。
ただし機械論的科学の進展に伴い支持を得たのは、唯物論的・物理主義的な諸理論である。そのなかにもさまざまな立場があるが、同一説、機能主義などを経て、現在ではさらに多様な展開がなされている。しかし他方で、物的なものへの心的現象の還元にはたえず疑念が提示されてきた。例えば志向性や感覚質(クオリア qualia)といった心的性質の還元不可能性などの問題である。また心的状態を脳の特定の部位に局在させて捉えることを批判し、むしろ身体全体や環境、他者との関係として把握する試みもなされている。