特に意識(ないし心的なもの)の特性を示すものとされる概念。例えば考えるとは常に何かについて考えることであるように、何か「について」なされている、ないし何か「へ向かっている」という意識のあり方を指す。ラテン語の語源intentioは中世のスコラ哲学において知性の働き・形成物などの意味で用いられたが、後にブレンターノ(Franz Brentano 1838~1917)が、物的現象から心的現象を区別する特性として、志向性を取り出した。
ブレンターノの思考に触発されつつ、志向性概念をいわば純化し、自らの構想する現象学(phenomenology)の中心的主題に据えたのがフッサール(Edmund Husserl 1859~1938)である。フッサールは志向的体験の分析を進め、特にノエシス/ノエマ(作用/対象)の相関関係として志向性の構造と諸機能を詳細に論じた。
志向性をめぐるフッサールの思考は、後の諸思想に大きな影響を及ぼし、ハイデガー(Martin Heidegger 1889~1976)の『存在と時間』における気遣い(Sorge 独)の概念や、メルロ=ポンティ(Maurice Merleau-Ponty 1908~61)の身体的志向性の概念などに批判的組み換えを経て引き継がれている。また心的性質の物理主義的な還元可能性をめぐる現代の議論(→「心身問題」)においても、志向性は重要な主題となっている。