他者は現代哲学の重要な主題となっているが、その問題圏は多岐にわたる。第一に他我問題として、他者の心の存在、また他人の心のありようの知の可能性が問われてきた。この問題をめぐっては、類推説、感情移入説、(それらに前提される二元論的思考を批判する、)直接知覚説、行動主義、私的言語の不可能性をめぐるウィトゲンシュタイン(Ludwig Josef Johann Wittgenstein 1889~1951)の思考などを経て、現在も議論が続いている。
第二に他者は、とりわけ自己(また自己の同一性)の成り立ちとの関連において問題となる。他者による承認を自己意識の現実的な成立の条件とするヘーゲルの思考を始めとして、自他のかかわりをめぐる問題は、間主観性に関する諸理論、「我-汝」の「対話」をめぐるブーバー(Martin Buber 1878~1965)の思考などを介し、多様な形で論じられてきた。
この問題圏と関連して、第三に他者の他者性が、つまり共同性や相互性には回収されえない他者のありようが問題となる。この点をめぐっては、「非同一的なもの」に関するアドルノの思考、わけても、他者への無限の応答可能性=責任(responsabilit 仏)に倫理の根源を見いだすレヴィナス(Emmanuel Levinas 1905~95)の思考、さらには正義をめぐるデリダ(Jaques Derrida 1930~2004)の思考などが特筆される。