応用倫理学とは、人工妊娠中絶、安楽死、臓器移植、動物の取り扱いの是非や、社会における企業や技術者の責任、保護されるべき個人情報、正しい戦争とは何かといった、人々において意見の分かれる具体的な現実的諸問題に取り組む倫理学の一分野。近年応用倫理学は細分化されており、扱う実践的諸問題に応じて大きく6つの分野に分けることができる。(1)環境分野では、環境倫理(environmental ethics)、動物倫理(animal ethics)、(2)生命・医療分野では、生命倫理(bioethics)、医療倫理(medical ethics)、臨床倫理(clinical ethics)、遺伝子倫理(genethics)、(3)企業・技術分野では、企業倫理(business ethics)、経済倫理(economic ethics)、職業倫理(professional ethics)、技術倫理(engineering ethics)、(4)情報分野では、情報倫理(information ethics)、メディア倫理(media ethics)、コンピューター倫理(computer ethics)、(5)研究分野では、研究倫理(research ethics)、学問倫理(academic ethics)、(6)国際分野では、グローバル・ジャスティス(global justice)、正戦論(just war)がある。これ以外にも、市民的不服従や死刑制度、ポルノグラフィーの是非といった問題が、応用倫理学では扱われる。
ただしこのように分類されるものの、これらの分野は相互に連関しており、たとえば遺伝子情報の保護や医療上のその利用をめぐる遺伝子倫理は、技術倫理や情報倫理、そして研究倫理などとも密接に結びついている。それゆえ応用倫理学は学際的な研究分野である。また応用倫理学とはいっても、伝統的な倫理理論をその特定の問題に単純に応用すれば問題が解決されるというわけではなく、また応用倫理の議論の中から従来の倫理理論の修正が要求されることもあるため、「応用」倫理学という名称は誤解を招くという指摘もある。
応用倫理学の黎明期から現在まで最も精力的な活動を行ってきた論者として、オーストラリア出身の倫理学者であるシンガー(Peter Singer 1946~)を挙げうる。シンガーは功利主義の観点から動物倫理や生命倫理、そしてグローバル・ジャスティスの問題に取り組んでいる。また義務論の立場からはオニールが、生命倫理、情報倫理、グローバル・ジャスティスの問題に取り組んでいる。またこうした応用倫理のジェネラリストとは別に、たとえば経営学から経営倫理学の専門家、医学から医療倫理の専門家といった具合に、既存の学問分野からその分野にかかわる応用倫理のスペシャリストが現在あらわれている。