個別言語それぞれの成り立ちを考察するのではなく、すべての言語に共通する構造を見いだそうとする試みが、19世紀後半、ソシュール(Ferdinand de Saussure 1857~1913)とパース(Charles Sanders Peirce 1839~1914)という二人の言語学者・論理学者によって、それぞれ独立になされた。記号学(ソシュール)と記号論(パース)という2つの表記方法があることも、彼らの概念使用に準じている。
ソシュールは、記号と記号によって指示される対象との関係を恣意的なものと見なし、ある記号の意味は、常にその記号が属する言語体系の中での他の記号との関係によって決まるとした。人々の世界の認識が、彼らが使用する言語を媒介にして行われることと合わせて考えるならば、様々な言語は、それぞれ、ある独立した構造のうちに、世界を表象していることになる。
パースもまた、プラグマティズムの立場から、人間の思考や認識が記号に依存するものであることを示した。パースは、ソシュールにおける記号と記号によって指示される対象の二項に加えて、それらの関係を示す解釈項の存在を示し、恣意的な関係にある両者が解釈によって結びつけられる構造を提示した。そこで解釈項と呼ばれるものもまた、それ自身、ひとつの記号であり、それらの三項関係の複層的な重なりによって言語が形成されるとされた。
人間の思考と認識を言語構造によって記述する記号学/記号論の考え方は、20世紀の哲学の大きな潮流として現れる言語論的転回(linguistic turn)を準備するものとして高く評価される。