20世紀中ごろに興隆した構造主義と呼ばれる思想潮流の中で、それを乗り越えようとする思考の枠組みを形成しようとする様々な運動が、一様にポスト構造主義という名前で呼ばれた。構造主義が、現在成立している言語・社会・経済の静的な構造を体系的に記述しようとするものであるとするならば、ポスト構造主義は、単に静的な構造を提示するだけでなく、いかにそうした構造が生成するかという観点から理論を形成することをひとつの共通の特徴としている。
構造主義的言語学から影響を受けて成立したジャック・ラカン(Jacques Lacan 1901~81)の精神分析理論が、オイディプス・コンプレックスによって形成される人間の精神構造を、父-母-子という家族関係の要素を所与のものとして記述するのに対して、「ポスト構造主義」とみなされる、哲学者のジル・ドゥルーズ(Gilles Deleuze 1925~95)とフェリックス・ガタリ(Flix Guattari 1930~92)は、近代社会において成立した小家族の構造自体の生成を論じた。同様に、既存の社会的ディスクールを脱構築しようとするジャック・デリダ(Jacques Derrida 1930~2004)も、所与の構造を前提にしないという意味で「ポスト構造主義」と呼ばれる。だが、そのような呼称の一致は、それぞれの理論の具体的な内容の同一性まで保証するものではない。