想像力とは一般に、現にある感覚によっては直接与えられない像(image ; Bild 独)を心に思い浮かべる能力とされてきた。また、アリストテレス(Aristotels 前384~前322)以来、想像力は感覚とも思考とも違う中間的な能力ともされてきた。さらに近代哲学以降、想像力は、現実との関係に関わりのないものではなく、むしろ人間固有の認識・創作活動・自由などに本質的に関わるものとして、重要な位置づけを与えられるようになる。 例えばヒューム(David Hume 1711~76)は懐疑論の立場から、事物の秩序に関する知識(例えば因果法則)は、理性に由来する確実なものではなく、習慣に基づく想像力の働きの産物であるとして、認識における想像力の役割を重んじた。一方、カント(Immanuel Kant 1724~1804)は、想像力(構想力)を、感覚に関わる受容性と知性(悟性)に関わる自発性の中間にあって、対象の経験を成立させる条件に関わるものとして、より積極的に評価した。例えば家という対象の経験の成立には、家の各々の側面の感覚に加えて、それらを結びつけて「家」という一つのまとまりある形を与える想像力の働きが不可欠である。カントはまたこのとき、経験的な法則に従って像(表象)を再生する想像力(再生産的構想力)のほかに、経験に先立って自発的に様々な表象に統一を与える想像力(生産的構想力)の意義を強調している。こうして積極的に評価された構想力は、さらに美や芸術的創造を支えるものともされるようになる。そしてサルトル(Jean-Paul Sartre 1905~80)は、現象学の立場から、人間が想像において目の前の所与の現実(存在)を超えるもの(無)に関わるのは、人間が自由な存在であるからにほかならないとした。