愛などの情感的結合を基礎に結びついた人間関係からなる領域であり、具体的で代替不可能な他者との関係が営まれる場。具体的な生の配慮=ケア(休息、養育、介護等)がなされる場であるとともに、唯一的な人格に対する承認をひとが得られる場でもある。
アーレント(Hannah Arendt 1906~75)によれば、近代の訪れとともに、従来は私的領域で営まれてきた労働や生産が公的領域に進出し、そのせいで公私の截然たる区別が喪われ、社会という中間領域が出現した。社会は、生産を増大させるために人びとを規範化し、内面にまで画一性を浸透させようとする。彼女によれば親密圏とは、画一主義から内面性を守ろうとすることによって築かれる領域なのである。
ハーバーマス(Jurgen Habermas 1929~)は、かかる親密圏の出現を、18世紀における市民層の小家族の登場に重ねている。市場の過酷な競争からの退避地であるこの親密圏は、両性の自由な結合による愛の共同体であり、また教養形成の現場ともなる。この自由意志と愛、教養といった要素が人間性を育み、そのうえに文芸的公共性が生い育つ土壌をも用意したとされる。ただしこうした見方に対し、親密圏は異性愛主義的な家族像に矮小化されるものではなく、より多様な関係や性愛のあり方が可能な場であるとする批判もなされている。
近年では、親密圏における関係に着目するケアの倫理の立場が現れ、従来的な普遍志向の正義の倫理を、具体的な他者に対する責任を看過するものとして批判している。