キリスト教の創始者。キリストとは「聖油を注がれた者」を意味するヘブライ語メシア(Messiah)のギリシャ語訳で救世主を指す。イエスは紀元前4年頃ユダヤの寒村ナザレで生まれ、神の国が近づいたとして悔い改めを求めるバプテスマ(洗礼者)のヨハネの宗教運動に共鳴して、ヨルダン川で洗礼を受けた。荒野で苦難に満ちた試練を受けた後、ガリラヤ湖畔でヨハネから独立してひとりで神の福音(gospel「よい知らせ」の含意)を説き、病気を癒すなどの多くの奇跡を行ったと伝えられる。ローマ支配下にあったユダヤには終末観が広まり、イエスがエルサレムに入ると、メシアを待望する民衆から神の子キリストとみなされて熱狂的に迎えられた。
イエスの活動は、エルサレムの保守的な祭司や律法学者によって、メシアを自称して神の権威を冒涜(ぼうとく)するものとみなされて、ローマの支配に対する反乱の指導者として訴えられた。ローマのユダヤ総督ピラトがイエスを政治的反逆者と認定し、イエスは捕らえられ、エルサレムのゴルゴタの丘で十字架にかけられて処刑された。この時、イエスは30歳を過ぎたばかりだった。刑死後、3日目にイエスは蘇り復活したと伝えられる。イエスの教えや行動を弟子たちが記録したのがマタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの四福音書である。これにパウロなどの使徒の書簡や預言者ヨハネの黙示録を加えたものが新約聖書(the New Testament)であり、神がイエスを通じて人類救済の「新しい契約」を啓示した書物の意味である。これに対して、旧約聖書(the Old Testament)とはイエス以前に神がイスラエル民族を通じて救済を誓約したもので、ユダヤ教から継承した聖典を「古い契約」と呼んで区別した。